第18章 好きって言って【カラ松、一松】
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???「……さくら……ねえ、さくら……」
遠くのほうで、わたしを呼ぶ声がする。
???「起きて……ねえ……さくら……」
声が、だんだん近づいてくる。
……なに、まだ眠いの。もう少し寝かせて。
???「おい、さくら……おねがい、起きてよ」
はっとして目を開けると、目の前に一松くんの顔があった。
「一松くん……? どうしたの、こんな夜中に」
寝ぼけ眼をこすりながら、身を起こす。
一松くんは、わたしの手をそっと握ると、いつになく甘えた声で、
一松「…なんか、腹減って眠れなくて。さくら、なんかつくって」
と言った。
一松くんがこんなことを言ってくるのは、初めてのことだ。
「どうしたの、珍しいね」
一松「いーでしょ、たまには。僕だって甘えたくなることくらいあるし…」
「ふふ、……いいよ、台所行こう?」
なんか、一松くん、かわいい。
子供みたいっていうか、弟みたいっていうか、……あ、もしかしてこれが母性本能ってやつなのかな?
わたしと一松くんは、手をつないで、階段をおりて台所にむかった。
なにつくろうかな……
冷蔵庫を開けて、ごそごそと食材をあさる。
たまご、たまねぎ、ピーマン、ウインナー……つくれそうなものは、ひとつしか思いつかなかった。
「つくって持っていくから、居間で待ってて?」
一松「…ううん、いい。見てる」
「あ……そう?」
見られてるとなんか落ち着かないなあ……
まあ、いっか。
とりあえず、冷蔵庫から出した食材をシンクの上に運ぶ。
そして、フライパンを火にかけて、油をひいた。
一松「なにつくるの」
「ふふ……なんだと思う?」
一松「わかんない……」
「じゃあ、完成してからのお楽しみね」
まな板と包丁を取り出して、玉ねぎをみじん切りにする。
……と、背後から、一松くんの腕に、ぎゅっと抱きしめられた。
「…っ、どうしたの、一松くん。玉ねぎ目にしみちゃうから、離れたほうがいいよ?」
わたしがそう忠告すると、一松くんは、わたしのうなじに鼻先をこすりつけて、ぽつり、
一松「……さくら、カラ松の匂いする」
と呟いた。