第17章 こっち見て【十四松+トド松】
「トド松くん……」
トド松くんと会話をしたのは、なんだかすごく久しぶりな気がした。
あの日……家出状態だったトド松くんとふたりで逃げようとしておそ松くんに連れ戻された日から、トド松くんは、わたしを避けるようになっていた。
もちろん、身体を求めてくることもなかった。
トド松「さくらちゃん、なんか久しぶりに会話したような気がするね」
「そう……だね」
トド松「あのね。あのあと、僕、いろいろ考えたんだ」
トド松くんは、壁から背中を離し、わたしのほうへ近づいてきた。
トド松「僕、やっぱりさくらちゃんのことが好きだよ。それは、今でも変わらない。でもね……」
そして、トド松くんは、わたしの顎を手でつかんだ。
「……っ」
トド松「でも、僕、もう遠慮しないことにした」
「えっ……?」
トド松「さくらちゃんの幸せとか、さくらちゃんの為にとか、そういうの考えないことにしたんだ。やっぱり、人生、開き直りが大事だよね♪」
「と、トド松くん……? なに言って……」
トド松「だって、僕ばっかり損してるじゃん。さくらちゃんのことを考えすぎてるばっかりに。だから、もう難しいことは考えないことにしたの。ねーっ、十四松兄さん♪」
そう言って、トド松くんは、十四松くんに向かって笑った。
その笑顔は、まるでお花がぱっと咲いたような、そんな可愛い笑顔なんだけど、
でも、
言葉では言い表せない、危険な香りがした。
怖い。
トド松くんが、怖い。
だって、今わたしの目の前にいるこの人は、いつものトド松くんじゃない……
十四松「あーあ、さくらちゃん、トド松のスイッチ入れちゃったねえ」
「な……なに? なにするつもりなのっ…?」
十四松「んー、そうだなあ。じゃあ、まず、質問していいー?」
十四松くんは、いつもの無邪気な笑顔でわたしの顔をのぞきこんだ。
「う、うん……なに?」
十四松「さくらちゃんは、どうして一松兄さんとここに来たのー?」
どうしてって……逆にどうしてそんな質問をするの?十四松くん。
「それは……ちょっと息抜きをしたくて」
トド松「……うそつき」
トド松くんの恐ろしく冷たい声がわたしを貫いた。