第17章 こっち見て【十四松+トド松】
それから、わたしは、時間を忘れて、図書館の本を片っ端から読み漁った。
一松くんは、ずっと隣にいてくれて、何をするわけでもなく、ただじっとわたしを見つめていた。
とても心地よくて幸せな時間だった。
このときのわたしは、このあと、あんなことになるとは、思いもしなかった。
一松くんのスマホが震えたのは、図書館に入ってから2時間ほど経ったときのこと。
スマホの画面を見た一松くんは、「…トド松からだ」と呟いて立ち上がった。
「……電話?」
本から顔をあげてたずねる。
一松「うん。僕、ちょっと外いってくるから」
「うん、いってらっしゃい」
トド松くん、どうしたんだろう。
何かあったのかな。
そんなことを考えながら、図書館を出て行く一松くんの背中を見送った。
そのときだった。
???「やっほー!さくらちゃん!!」
聞き慣れた声に顔をあげると、そこには黄色のパーカーの男の子……十四松くんが立っていて、わたしの顔をのぞきこんでいた。
「えっ!じゅ、十四松くん!?」
十四松「十四松でっす!!」
「こんなところで何してるの!?」
十四松くんは、伸びきったパーカーの袖を口にあてて、無邪気に笑った。
十四松「んっとねー、さくらちゃんと一松兄さんのこと尾行してきた!」
「えっ……?」
尾行……?
それってどういうこと?
十四松「あっ、トッティも一緒に来たんだよ〜!」
「と、トド松くんも一緒に……? でも、一松くん、さっきトド松くんから電話が来たって……」
十四松「あーー、あれ?あれは、一松兄さんをさくらちゃんから離すためだよ!」
「えっ…………」
全身から血の気がひいていくのを感じた。
その瞬間、十四松くんの手が、わたしの腕をつかんだ。
十四松「さくらちゃん、こっち来て。ぼくたちと一緒にあそぼー!」
「い……いや……っ」
抵抗もむなしく、わたしは、十四松くんに引きずられて図書館のお手洗いに連れて行かれた。
十四松くんが、男女兼用のお手洗いの扉をひらくと、中にトド松くんがいた。
トド松くんは、壁に背をもたれてスマホをいじっていたが、わたしに気がつくと、スマホから顔をあげてにっこりと笑った。
トド松「やっほ、さくらちゃん」