第17章 こっち見て【十四松+トド松】
わたしが説明すると、一松くんは、なにを考えているのかよくわからない無表情で、「ふーん」と小さくつぶやいた。
「これね……わたしが演劇部に入って初めて演じた作品なんだ」
一松「……そうなんだ。さくらはなんの役だったの?」
「えっ……それ訊いちゃう?」
正直、あまり言いたくない。
だって、わたしがもらった役って、貴族Bとかいう脇役中の脇役だったんだもの。
台詞も一個しかなかったし。
一松「わかった……察した」
「そう……ありがとう、一松くん」
一松「でも、ほんとは主役がやりたかった?」
「そ、そりゃあ、もちろん……!」
練習中も、何度サンドリヨンがわたしだったら、って考えたことか。
もちろん、主役をやりたかったっていうのもあるけど、何よりも……
一松「……王子の役がカラ松だったから?」
「えっ!?」
驚いて一松くんを見ると、一松くんは、なんとも悲しげな、寂しげな、切なげな、そんな顔でこちらを見ていた。
「一松くん……」
一松「同じ顔なのに。なんでさくらはカラ松を好きになっちゃったの……」
「……っ」
どうしよう。
どうすればいい。
一松くんのこんな顔、初めて見た。
「ごっ……ごめん…」
やっと口から出てきたのは、そんな謝罪の言葉だった。
しかし、そのとき。
一松「ふ……ふは」
突然、一松くんが、吹き出すように笑った。
「え……?え?な、なに?なんで笑うの?」
状況がわからず困惑するわたしの顔をのぞきこみ、一松くんは、にたりとギザ歯を見せて笑った。
一松「…冗談だよ。さくらがどんな顔するか見たかっただけ」
「へっ……?」
どういうこと?
じゃあ、今、一松くんがしおらしい顔したのは、冗談ってこと……?
だ、だまされた……