第17章 こっち見て【十四松+トド松】
この図書館は、わたしが学生時代によく通っていた図書館。
実は、わたしが松野家の近所に引っ越したのは、中学を卒業してからで、それまではこの図書館の近くに住んでいた。
だから、ここは、わたしの思い出がたくさん詰まった場所。
一松「……で。どれ読むの」
「えっと……じゃあ……」
わたしは、ぐるりと館内を見回した。
壁一面をうめつくした本。
どれから読もう…? 選べないよ、こんなの。
と、そのとき。
ふと、一冊の本が目に止まった。
「これ……」
サンドリヨン。
それは、わたしが高校時代によく読んでいた本だ。
読もうと思ったきっかけは……
わたしが所属していた演劇部で、この本を題材にした劇をすることになったから。
一松「……へえ。さくらってこういうのも読むんだ?」
「あ……うん」
一松くんの声で我に返り、とりあえず本を手にとろうと、手をのばす。
……が、サンドリヨンの本は本棚のとても高い位置にあり、あとちょっとのところで届かない。
と、そのとき。
横から伸びてきた一松くんの手が、ひょいとお目当の本を本棚から引き抜いた。
「……あっ」
一松「……はい」
一松くんは、取った本を差し出してくる。
うわあ……
なにこの展開……
ちょっとドキッとした……
「あ、ありがとう……」
わたしは、ばくばくとうるさい心臓を必死に抑えて、差し出された本を受け取った。
一松「向こうで読も…」
「う、うん、そうだね」
ふたたび手を引かれて、ふたり並んで座れる席まで連れて行かれる。
わたしたちは、そこに仲良く並んで腰掛けた。
ぱらぱらと本をめくってみる。
ぎっしりと文字が詰め込まれたページの端々に、小さな可愛い挿絵がある。
そうだ……こんなかんじの本だった。
なつかしい……
一松「それ、どういう話なの」
隣の一松くんを見ると、彼は、机の上で腕を組み、そこに顎をのせて、わたしを上目に見つめていた。
……なんか、猫みたい。
「シンデレラって知ってる?」
一松「うん……知ってる」
「その原作だよ。継母と意地悪なお姉さんにいじめられている働き者の女の子が、魔法使いのおばあさんにお姫様にしてもらってお城の舞踏会に行って、そこで王子様とむすばれるの」