第13章 君を好きになった理由
そして、さくらちゃんは、僕の顔をのぞきこみ、
「ねえ、トド松くん。トド松くんは、どうして学校に来ないの?」
心配そうにそう言った。
トド松「どうしてって……」
「お兄さんたち、トド松くんのこと、すごく心配してるよ?」
トド松「そんなこと、わかってるよ……」
そう。僕だって、兄さんたちが僕を心配していることはわかってる。
僕を怒るのだって、僕が心配だからだ。
申し訳ないとも思っている。
でも、それを兄さんたちに言えるほど、僕は素直ではない。
トド松「なんかね……嫌になってきちゃったんだよね」
「え?」
トド松「僕らって6つ子でしょ? 同じ顔、同じ身長、似たような名前、……僕は、自分がなんなのか、よくわからなくなっちゃったんだ」
さくらは、はっと息をのんだ。
トド松「そしたらさ、どうしてか家族にものすごく反発したくなっちゃって……あまり家にも帰りたくなくなって」
「うん……」
トド松「さくらちゃんも知ってるでしょ? ちょっと前まで、先生も友達も、みんな、僕らの見分けなんてついてなかったでしょ。今は、間違われないようにパーカーの色を変えてるけど、それがなければ、僕らなんて誰が誰でも同じ。僕と兄さんの誰かが入れ替わっても、誰も気付かないんだ」
なんでだろう。
思っていたことが、次から次へとあふれてくる。
トド松「どこに行っても、みんな、僕を見て言うことはひとつ。『ああ、あの有名な松野の6つ子か』って。しょせん、みんな、僕のことなんて、松野の6つ子の一人としか思ってないよ」
と、そのとき。
さくらちゃんの手が、僕の手に重なった。
トド松「……えっ?」
「大丈夫だよ、トド松くん」
さくらちゃんは、さっきとは一変して、ひどく優しい笑みを浮かべていた。
「パーカーの色なんかなくても、トド松くんはトド松くん。6つ子の一人じゃない。あなたはトド松くんでしょ?」
トド松「……っ」
思わず、息をのむ。
さくらちゃんの笑顔が、言葉が、
あまりにも綺麗だったから。