第1章 *
「穢れてしまったら、審神者は続けられないんだって…!」
言葉に出してしまうと、それが現実になってしまったようでとても悲しかった。堪えきれずにじわりと滲んだ涙が目尻から零れ出す。拭う事すら出来ずにぽろぽろと泣く私とは対照的に、長谷部は未だ固まったままだ。そのうち嗚咽も我慢できなくなり本格的に泣き出した私の耳に届いたのは、長谷部のほっとしたような呟きだった。
「主は、そのような事で…。」
さすがにその言い方にはぷっつんした。
「そのような事って何!?審神者でなくなったら、もう一緒には居られないんだよ!?それが嫌だから、私だって必死に我慢してきたのに…!」
「では、主は本当は俺と結ばれたかったと?」
「当たり前でしょ!?好きな人とそうなれたら、って誰だって思うものじゃ…な、い…。」
威勢よく泣き叫ぶように言った私の言葉尻が、どんどん窄まっていく。それは目の前の長谷部が言質をとったと意地悪く笑ったからだった。しまった、と思った時には既に遅く、横に敷かれたままの布団に押し倒されたあとだった。就寝前に私室を訪ねてきた長谷部をそのまま招き入れたのが仇になったようだ、後悔先に立たずとはまさにこの事。ぐるんと視界が変わり目に映るのは天井と何故か嬉しそうな長谷部の顔だけだ。ピンチである。
「主は、俺を求めていてくださったのですね!」
「ちょっ、長谷部私の話聞いてた!?」
「もちろんです。主が俺と結ばれたいと思ってくれていたと、この長谷部はしっかりと聞きましたよ!」
「違う!そうじゃない!」
必死で長谷部の腕の中から逃れようと身を捩るけれど、そんな抵抗は知らないとばかりに簡単に抑え付けられる。嬉々とした表情で私の首筋に顔を埋めようとする長谷部から必死に離れようとするけど、背には布団と畳しかなく無意味に床に体を押し付けるだけだった。じたばたと暴れる私をいとも容易く抑え込み、首筋に顔を埋めた長谷部は深く深く息を吸い込んで吐息を零す。小さく「主の匂いだ…」と呟いたのが聞こえて、そんな場合ではないのに胸の高鳴りを誤魔化すことは出来なかった。