第1章 *
翌日。
痛む腰を擦りながら演練の布陣を練る私の横で、近侍の長谷部は桜を散らしている。肌の艶も機嫌も最上級の長谷部を見て本丸のみんなは思うところがあったらしいが、囃し立てるその声すらも今の長谷部には極上の賛美のようで機嫌よく対応していた。対して私といえば、見覚えのある演練相手を見つけて動揺を隠しきれない。そう、彼女は「審神者は穢れのない存在でなければならない」と教えてくれた張本人だった。今日の演練相手は彼女のようで、桜を散らしたまま演練に圧勝して誉をとってきた長谷部を見て首を傾げる。そして、思い出したように去り際に私へと歩み寄った。
「今日はお疲れ様。そっちの長谷部、すごく気合い入ってたね。対するあなたはあまり体調良さそうじゃないけど。」
「あ、えと、お疲れ様…。」
「大丈夫? あ、そうだ!ねえ、この間の話、覚えてる?」
「え?」
「ほら、審神者は穢れちゃだめだって話! あれね、嘘だったみたい。」
「…へ、」
「だってよくよく考えたら、審神者の中には既婚者も子持ちもいるでしょ?そりゃ穢れとかそんなの関係ないよねー。」
悪びれる様子もなく、「じゃあまたね」と去って行く彼女を誰が責められようか。とりあえず、背後で桜吹雪をこれでもかと散らしながら本丸まで恭しく私の手を引く長谷部が、箍が外れたように激しく毎晩何回も求めてくることなど、この時の私はまだ知らなかった。長谷部から舞う桜吹雪が綺麗だなあなんて事を思うのが現実逃避だと薄々気付いていたが、当の長谷部がとても幸せそうなのでまあいいかと痛む腰に鞭を打ってその口付けに応えるのだった。