第1章 *
「…主を想って主を求めることは、そんなにいけないことでしょうか…。」
「………。」
「…主の全てが欲しいと思ってしまうことは欲張りだと分かっています。それとも…そう思っているのは、俺だけなのでしょうか…。」
落ち込むように苦しげに吐き出された気持ちには、痛い程気付いていた。そう、長谷部と私が恋仲になってから三ヶ月程。私は幾ら長谷部から求められても、頑なにそれを拒否し続けていた。恋愛経験が乏しい私には、そこに至るまでどれほどの期間が必要なのかは皆目見当がつかない。それでも刀剣男子として顕現し、今は健康な成人男性として生活する長谷部にはかなりの苦行を強いているのだろう。ぎゅっと握られたその拳に、想いの強さが現れているようだった。
「私だって…長谷部のこと好きだし、その、えっと、そういうことに興味が無いって言ったら嘘になるけど…。」
「では、何故…。」
縋るように言われた言葉に、どうしようという戸惑いが押し寄せる。私だって立派な成人女性だ。人間の三大欲だってちゃんと持っている。そういった事に嫌悪があるわけではない。経験がないので羞恥や恐怖がないわけでもないが、それでも、好きな相手と結ばれたいと思うのは当然のことだろう。しかし。
「…………。」
「やはり、主は俺のことなど…。」
再び沈黙する私に何を思ったのか、絶望したように長谷部が呟くので、半ば自棄になって叫ぶように言ってしまった。
「だって!審神者は穢れのない存在じゃないといけないって!聞いたんだもの!!」
「……は、」
ぽかん、と珍しく目を見開いて間の抜けた様子の長谷部に対し、私は必死だ。そうなのだ。最近演練で手合わせをした同じ年頃の審神者から「処女でなければ審神者は務められない」と聞いてしまったのだ。彼らは人の形をしてはいるが、付喪神。神様なのだ。そして、神様は穢れを嫌う。つまり、処女でなければならない。その事実を知って愕然とする私に、演練相手は更に止めを刺してくれた。全く有り難くない。