第1章 *
「…………。」
「…………。」
長谷部と恋仲になってから、今ほど訪れる沈黙が痛いと思った事があっただろうか。つい先日まで、面白がった他の刀剣達にからかわれる程甘い雰囲気を漂わせていたというのに。今私を見つめる長谷部の表情は真剣そのもの。見る限りでは引き下がってくれないらしい。しかし私といえどもここはそう簡単に引き下がるわけにはいかないのだ。私の今後に関わるのだから。じっと見つめる長谷部の強い視線に目を逸らしそうになるのをぐっと堪えて、半ば睨みつけるように見返す。すれば、長谷部も負けじと睨み返してきた。正直言って、超怖い。
「……主は、本当は俺のことが好きではないのでしょう。」
漸く口を開いたかと思えば、何を言い出すのか。長谷部は「心優しい主は俺の気持ちを無視できずに、仕方なく頷いてくださっただけなのでしょう」とのたまう。その言葉の裏には、優しさという感情故に残酷だ、という意味がありありと現れていた。全く勘違い甚だしいが、それ以上にそんなふうに内心で思われていたことがショックだった。私はきっと長谷部が想っている以上に長谷部のことを好いているし、でなければ恋仲になどならない。刀剣男子との恋愛は禁止こそされていないが推奨だってされていないのだ。政府からの風当たりが若干であれ強くなろうと気丈に振舞えるのは、そこに気持ちが寄り添うからだと言うのに。さすがにショックで、カチンときたので私も言い返してやる。
「…長谷部は、私のことを好きでもない相手と恋仲になるような軽い女だと思っていたわけね。」
「!? ち、違います、主!誤解です!!」
自分でも思っていた以上に冷たい声が出たが、そんなことは気にしていられない。吐き捨てるように言えば、途端に長谷部はワタワタと慌て出した。必死で弁解しているが、聞いてやらない。本当は分かっている。長谷部がそんなことを思っていないということくらい。思ってもいないような言葉を言ってしまうほど、追い詰められているのだろう事も理解している。でも、こればっかりは、引けないのだ。
つん、とそっぽを向いて取りつく島もない私の様子に、初めの威勢はどこへやら。しゅん、と全身で落ち込んだ様子を隠しもせずに、長谷部はぽつりぽつりと話し出した。