第2章 繊月 -今に繋がる過去-
地元の大学を卒業した私は、上京を決意して就職をした。
高校卒業後に先に東京の大学へ行った同級生たちがみんな、キラキラと輝いているように見えていた私は何の不安も持たず、希望だけを持ってこの街を出て行った。
一年目はただ我武者羅に働いた。
企業という組織に飛び込んで、今まで知らなかった世界を次々に叩き込まれて、とにかく駆け抜けるしかなかった。
二年目は楽しもうと努力した。
仕事を覚えて心に少しの余裕を持ち始めた頃には、もっとプライベートを充実させようと思った。
せっかく出てきた都会だからと、休日には同僚なんかと出かけたりもした。
そのうち、同期の一人と親密な関係になった。
場所は違えど、お互い地方から出てきた者同士、持っていた空気が一緒で過ごしやすい人だった。
恋はいつしか愛に変わって、就職三年目を迎えた時に、お互い独身寮を出て同棲を始めた。
その頃は、正月しか実家に帰ることはなかった。
帰ってもろくに外に出ないで、年が明けたらすぐに東京へ戻った。
地元の友達に会うよりも、早く彼に会いたいとしか思わなかった。
あるとき、先に家に戻っていた彼がこう言った。
『来年は、俺もお前の家に一緒に行こうかな』と。
物凄く嬉しくて、涙を堪えて笑顔で返事をした。
それから二人は将来の事を考える時間を沢山作った。
職場にはどのタイミングで告げるか。
暫くは共働きで行こう。
入籍は記念日にしよう。
結婚式はどこであげよう。
子供は、何人作ろうか……
今考えると、そらぞらしくて大笑い出来るくらい、純粋に幸せな二人だった。
そんな二人の世界が、変わった。
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