第2章 繊月 -今に繋がる過去-
やかんに火をかけて、キッチンテーブルに落ち着く。
『これからいつものヤツらと呑みに行くからお前も来いよ』
と、繋心からの半ば強引なお誘いを断って、私は足早に自宅に戻った。
娘の突然の帰宅にも父親はいつもと変わらない態度で短く声を交わすだけ。
まぁ、こんな感じでいつもご飯を食べに来ているから慣れているんだろうけど。
予想通り母親は外出していて、作り置きしていたご飯は父親が綺麗に完食してしまったとのことだった。
私の家と違うのは、それでも何かしら食料があること。
フリーズドライのお茶漬けと冷凍のから揚げを発見して、今日はそれを夕飯にしようと決めた。
椅子に座って掌を眺める。
赤く擦れた両手は痛みほど大した怪我ではない。
綺麗にしておけば酷くはならないだろう。
右足は普通に歩くと相変わらず痛む。
かばうようにひょこひょこと歩いて居間に行った時に、父親にどうした聞かれて、転んだとだけ答えた。
冷やしとけよ、と湿布を貰ったけれど、腫れてはいないようだし放っておこうと思った。
けれど、ズキズキと痛みを主張し始めたそこに気休めにと湿布を貼る。
しゅんしゅんと蒸気を噴出したやかんの火を止めて、どんぶりへとお湯を注ぐ。
お皿に出したから揚げをぱくりと口に運び、お茶漬けが温くなるのを待った。
「……繋心、相変わらず金髪なのか……」
先ほど会った同級生の姿を思い出してぽつりと呟いた。
昔から変わらない、豪快な人。
繋心とは同じ小・中・高・大学生活を過ごした腐れ縁っていう仲だ。
大学を卒業した後は実家の商店を手伝うって言っていたけれど、それって体の良いフリーターだよなぁと考える。
"いつものヤツら"って言っていたけれど、きっとバレー部のみんなのことだろう。
みんなそれぞれ実家や親せきの店を継いでいるんだっけ。
個人経営の商店が世に埋もれず生き残っている地域なんて、やっぱり田舎だなぁと思った。
「……みんなに会いに行けばよかったかな……」
誰に言うでもなく、声が漏れて言った。
……会いたいけど、会いたくないな。
今、優しい人たちに会ったら……色々、崩れちゃいそうだ。
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