第2章 繊月 -今に繋がる過去-
変わってしまったのは、向こうから。
私の誕生日の日に、"飲み会"と言って朝まで帰ってこなかった。
別に、そんなことで怒ったりはしない。
それまでも付き合いで飲み会に行くことは多かったし、迷惑をかけられたわけじゃないから。
けれど、それから彼が家に帰ってくることが少なくなった。
当時別の営業所に移動していた彼は、『出張』と称して一泊二泊と短期間家を空けることが多かった。
私は何の疑いもなく受け入れていたけれど、所詮は同じ会社に勤める二人。
彼の『出張』なんて、一度も無かった。
今思えば、私が泣いて縋ったり怒り狂って暴れたりすれば良かったのかとも思う。
けれど、私は何故か「馬鹿らしい」と冷めてしまっていた。
彼に対しての怒りよりも、人の感情という一番信用のおけないものを、心から信じ切っていた自分に腹が立っていた。
その後しばらくは、私は何も変わることなく彼との生活を続けていた。
ある時、彼が家に帰ってきた時に明日からまた出張だと、うんざりしたように話しだした。
私はどこに「出張」に行くのか尋ねた。
今まで私がそんな風に行先を聞くことがなかったから、彼は少しの戸惑いを見せた後、すぐに「埼玉の方なんだ」と、ほかの営業所がある地域を告げた。
そう、大変だね、と返して、その日は一緒に眠った。
最後に、一瞬でも愛した人の温もりを感じようなんてセンチメンタルを気取ってみたけれど、ただただ冷たく感じるだけだった。
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