第4章 上限の月-夜に沈む-
返す言葉を探しているうちに、月島くんの足がピタリと止まってそして私の方に体を向き直した。
自然と見つめ合うような空気が流れて、月島くんの口がわずかに開いた時、
ヒュウウウウゥッ
と、夏の夕暮れに強い風が舞い込んだ。
「ぅぷっ……!」
思わず拭いた風に、周りの土や葉が舞いあがる。
顔に掛った髪を直していると、ふっと視界が陰った。
いつの間にか直ぐ目の前に月島くんがいて、
そしてその右手をすっと差し出すと、そのまま私の頭にふわりと触れた。
「……な、に……?」
その動作がスローモーションのように見えて、鼓動が速くなる。
「……ゴミ、ついてたから」
私の髪を撫でるように、大きな手がさらりと動いていく。
「あ、ありがとう……」
私がそう言うと、彼はくるりと背中を向けた。
そして「僕、こっちなんで」と、目の前の曲がり角を早足に曲がってしまう。
あっという間に姿が見えなくなって、私は一人呆然と立ち尽くすだけだった。
彼の手が触れた頭の先から、全身に痺れるような熱が走る。
あんなにも年下の男の子の手付きにこんな感情を覚えるなんて……不覚……!
私は速まる鼓動を誤魔化すように、足早に約束のお店へと向かったのだった。
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