第4章 上限の月-夜に沈む-
夏休み3日目の夜、繋心から電話が掛って来た。
予想通り『飲みに行こう』のお誘いだった。
昨日嶋田くんのお店に買い物に行ったから、そこから私が帰って来ている事を聞きつけたんだろう。
いちいち誘ってくれなくてもいいのに……と思いつつ、私は出掛ける準備をした。
と、そこへ母親がやって来て、出掛ける前におつかいをしてくれと言ってきた。
夏休み中甘えている私に拒否権もなく、私は集合時間よりもだいぶ早めに家を出ることになった。
「届け物って……クロネコじゃないんだからさ……」
肩に掛けた風呂敷包みを持ち直しながら、ブツブツと文句が垂れて行く。
母親のおつかいは、買い物ではなく届け物。
うちの父親が嶋田くんのお父さんから借りた古書を返して欲しい、という事だった。
「今日嶋田くんとも会うんでしょ?」と言われたけれど、こんな荷物持って飲み屋行くのってどうなのと思い、私は直接嶋田くんの家に寄ることにしたのだ。
「車で届ければいいのに……っていうか重すぎ…っ、お父さん何読んでんのこれ……」
相変わらず、誰に届くでもない愚痴が、ぶつぶつと地面に零れていく。
そんな時、ふいに後ろから「香奈さん!」と声を掛けられた。
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