• テキストサイズ

【HQ】No Border

第4章 上限の月-夜に沈む-





企業戦士にも少ないながら夏休みはやってくる。

私は有給を組み合わせて九日間の天国を得ることが出来た。

学生時代の夏休みと比べたら少ないかもしれないけれど、社会人になって初めて解ることの出来る、なんとも有り難い日数だ。

世の中には休みなく世の為人の為に働く人もいる。
そんな人たちに感謝しつつ、つかの間の天国を満喫しよう。

そう思った私は、早速携帯電話を取り出して母親に連絡をする。

休みの日、何もせずともご飯は出てきて、何もせずともお風呂の準備が整う。
そんな実家に大いに甘えることにした。


あの日以来、繋心から部活への出動要請はない。

そう言えば東京に遠征に行くとか言っていたっけ。
わざわざ東京に行くなんて、たいそうなことですねぇと思う。


……東京、か。

二度と戻らないつもりで帰ってきたし、行くことも滅多にないだろう。


……向こうで出来た知り合いの人たちはどうしているだろうか。

アパートの近くの商店街の店主さんたち、

お昼休みによく利用したカフェのマスターさん、

初めて行った素敵な美容室のお兄さん、

そして、

勤めていた会社の同僚や同期の皆。


何人かはSNSを通して近況を知ることが出来るけれど、直接連絡をやり取りすることもない。

気軽に『今から会おう』という距離ではないのだから。



.
/ 54ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp