第3章 三日月 -月の満ちはじめ-
やがて、繋心の大声で練習終了の合図が響き、私は顧問の武田先生に軽く挨拶を済ませて体育館を出た。
職員用のシャワールームと更衣室を使ってもいいんですよ、という武田先生の言葉に、私は実家が近いので大丈夫です、と断りを入れた。
車で送ってくれるという繋心にも、午後もあるんだからお昼はちゃんと休憩して、と、同じように断る。
軽く汗を拭いてから荷物を纏めて体育館を出る。
グラウンドでは他の運動部も活動していて、青い空の下に相応しい純粋無垢な声が響いていた。
そんな様子をぼんやりと眺めて暫く立ち尽くす。と、体の中心からぐぐぐ、と蠢くような音がした。
「……お腹すいた。早く帰ろ」
足早に校門を出たところで、香奈さん、と後ろから声をかけられる。
首だけを後ろにやると、そこには月島くんの姿があった。
「あれ、月島くん」
「もう、帰るんですか」
「え?あ、あぁそう。明日からまた仕事だから自分ち帰らないといけないし」
「……駅の近くなんでしたっけ」
「そう。夜までには戻りたいから」
「……」
月島くんは私の言葉に目でそう、と興味なさげな相槌をうつ。
居た堪れなくなって、いつもよく一緒にいる山口君はどうしたのか尋ねると、自主的にサーブ練をしていると答えた。
私は月島くんも自主練しないの?と言いかけた言葉を飲み込み、午後も頑張ってね、と笑顔を作り今度こそ帰ろうと足を進めた。
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