第3章 三日月 -月の満ちはじめ-
その日の終わり、体育館横の水道で顔を洗っていた月島くんにお疲れ様と声をかけてみた。
彼は顔を上げて目を細めると、水道台の上に置いたタオルで顔を拭う。
眼鏡を外した顔は幼さを残していて、やっぱり子供だなぁと思った。
なんて呑気なことを考えていると、月島くんから何か用ですかと鋭い声で聞かれた。
「用ってほどでもないんだけどさ……月島くんは、部活嫌いなの?」
「……別に」
眼鏡を掛けなおしながら、予想通りの答えをくれた月島くんに私は曖昧に笑顔を作る。
「そっか」
「……質問が下らない。部活に好きも嫌いもないじゃないデスカ」
「……」
その表情に、私はハッとした。
心底イラついて、何かを拒絶するような、嫌悪の表情だった。
「……躊躇してるの?」
「は?」
「部活、一生懸命やること、とまどってるの?」
自然と、そんな質問が出ていた。
月島くんはいつでもどこか冷めた雰囲気を醸し出していて、それは私みたいに赤の他人が近くにいるからだと思っていたけれど、
そうではなくて、彼は何事にも一歩引いた位置で物事を見る子なんだと感じた。
子供なら、子供らしく好きなことに熱くなればいいのに……
「……バレーボール、好きなんでしょ?」
「っ、誰が、こんな……っ」
月島くんは吐き捨てるように言うと、足早に部室へと戻って行ってしまった。
やってしまった。
怒らせたかも。
そんな風に自分の発言を後悔して、繋心のいる体育館へと戻った。
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