第3章 三日月 -月の満ちはじめ-
いつもの駅、改札を出て、実家へと帰るにバスに乗り込むべく、ターミナルの方へ向かう。
と、真横にぬっと大きな影が現れて、思わず「わ、」と声を出してしまった。
「……どうも」
その影はずいぶん高い位置で頭を下げる。
「あ、えと、月島くん……?」
ひときわ目立つその身長は、もう私の眼には見慣れて映る。
けれど、やはり日常には珍しいらしく、彼をちらりと見上げて通り過ぎて行く人がちらほらと視界に映った。
「……月島くん、身長高いよね。何センチ?」
「……188cmですけど」
「は、はちじゅうはち……30センチ以上違うのか……ズルいな……」
「……」
私の言葉に、月島くんは怪訝な表情をした。
それは怒っているとか不機嫌とかじゃなくて、不思議そうな顔。
「……? ごめん、私失礼なこと言っちゃったね?」
「あ、イエ……女子から『ズルイ』とは言われたことがないんで……」
「じょ、女子……って言って貰える年齢でもないけど」
「背、高くなりたいんデスカ」
「ん?いや、今は別にどうでもいいんだけど、私も昔バレーやってたからさ。その時はやっぱり身長高いのっていいなぁって思ってたよ」
「へぇ……」
それだけ言って口を噤んだ月島くんに、私は居心地が悪くなる思いになって、これから帰るところなの?とありきたりなことを聞いてみた。
すると彼は「そうです、じゃあ、僕バスなんで」と言ってターミナルの方へ歩き出し、どうもと言って頭を下げた。
何故か私は条件反射で「私もバスなんだっ」と言って彼の後を慌てて追ってしまった。
二人でいたところで会話なんてないんだから、じゃあね、と言って別れればよかったのに、何故か体が動いてしまったのだ。
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