第3章 三日月 -月の満ちはじめ-
その日の昼休み、私は休憩時間のほとんどを繋心との電話で費やしてしまった。
またも突然かかってきた電話は、突拍子もない誘いだった。
電話じゃなくてメールにしてとお願いしたのに、電話の方が手っ取り早いだろとあしらわれてしまう。
うんざりしながらも反論せずに話の続きを促すと、夏休み中の部活のコーチを手伝わないか、と言ってきた。
『嶋田たちは仕事があるみたいでよ~』
私も仕事だよと突っぱねると、『土日は休みだろ、夏休みくらいあるだろ!?』と畳み掛けてくる。
この調子の繋心に食い下がるのはとても面倒くさいと思って、私は「行けたら行く」と返事をした。
繋心は納得がいかないらしく、今度の土曜頼んだぜ、と日にちを指定して来て、私はうんざりしたように了承しながらも内心、少しだけ浮き足だっていた。
この間、母校の体育館に久しぶりに行ったとき、
言いようのない高揚感が私の中に確かにあった。
あの時はまたここに戻れてうれしいだとか、また来たいだなんて思ったりはしなかったけれど、
あの懐かしい場所に行ってもいいかな、なんて考えたりもしていた。
繋心と電話を切った後、すぐに母親にメールを送る。
『金曜の夜そっちに帰るからごはん宜しく』
その返信はすぐに来たけれど、可愛いのか不細工なのかイマイチ解らないウサギが、親指を立ててウインクをしている『OK』というスタンプイラストのみだった。
楽しみがあると時間が長く感じるというけれど、私にとって部活の手伝いをするということは楽しみの部類に入っていなかったらしく、週末はあっという間に訪れた。
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