第3章 三日月 -月の満ちはじめ-
あれから特に繋心と連絡をすることもなく、
私は"日常"に戻っていた。
独り暮らしの家に帰って、朝になったら会社に行って、
日中9時間缶詰めになり、夜になったら家に帰る。
よくある事務仕事は楽しいともやりがいがあるとも感じない。
適度なボリュームがあって、淡々とこなせる仕事。
難しくはないけれどそれなりに頭は使う。
だから、余計なことを考える時間はない。
中途採用で入社した私に"同期"はいない。
同年代の人は何人かいて、その人たちのいわゆる同期飲みとやらに誘ってくれることもあったけれど、
断り続けるうちに誘われることもなくなった。
仕事中のコミュニケーションは問題なくとっている。
かといって、時間外にまで面倒くさい人間関係を築きたくない。
定時出退社目標、ときどき残業。
会社が終われば寄り道することなく家に帰る。
趣味なんて、今は何もない。しいて言えば寝ること。
学生時代の友人は、ちらほらと生活環境に変化を見せる子が増えた。
結婚して妻になり、出産して母になっていく。
私とは比べ物にならないくらい、密度の濃い時間を送っているのだろう。
漠然とそんなことを考えながらも、何も変化のない自分の生活に焦ることはなかった。
私は私。
誰にも干渉されたくないし、誰にも、依存したくない。
自分の生活に、他人の感情を入れたくない---。
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