第3章 三日月 -月の満ちはじめ-
いつの間に寝ていたんだろう。
鼻をかすめるタバコの匂いで、ゆっくりと脳が覚醒していく。
はっと気づいたときに、ちょうど繋心が窓の外に向かってふぅー、と煙を吐き出しているところだった。
「あっ、ごめん、やだ、私寝ちゃってたんだ」
「あー、いや、こっちこそ悪い。休みなのに連れ回しちまった」
「まぁそうだね。でも、起こしてくれてよかったのに。起きるの待っててくれたの?」
「お前、相当疲れてんじゃねえか?何回も声かけて揺さぶっても起きなかったんだよ」
「う……ごめん……ありがと……」
もう一度お礼を言って、慌てて車を降りた。
運転席の方に回って、改めて繋心にお礼を言う。
「……誘ってくれて、ありがとうね。気分転換出来た」
「……だろ?こっちも助かった。じゃあな」
ゆっくり休めよ、と言って、繋心は車を走らせた。
角を曲がったのを見届けて、私は家の中に入る。
繋心は優しい人。
だから、会いたくなかった。
張詰めて張詰めて切れないように保っていた糸が、
ぷつん、と切れてしまいそうになる。
「……シャワー、浴びよう」
荷物をどさりと玄関に置いて、ふう、と長いため息を吐いた。
.