第3章 三日月 -月の満ちはじめ-
その日、車で来ていた繋心は一口もお酒を飲むことはしなかった。
明日も部活あるから、という同じ理由で武田先生もご飯を食べるだけだった。
そんな二人を差し置いて自分だけ飲む気にもなれず、ただただ空腹を満たすようにご飯を口に運んだ。
主にバレー部のみんなの話を聞いて、私は愛想笑いをするだけだ。
単純に面白いと思うし、単純に自分には関係ない話だとも思っていた。
小一時間程食べてから、武田先生を駅まで送ると、再び繋心は車を走らせる。
私は後部座席に座ったまま、ぼんやりと窓の外を眺め続けた。
「……前、来りゃいいのに」
「メンドクサイからいい」
短い会話が終わると、黒い景色に車のエンジン音が響く。
「……東京、どうだった?」
今までそのことを何も聞いてこなかった繋心が、初めて自分の知らない私の過去を聞いてきた。
「……」
何も話したくない、というより
どう答えたらいいのかわからなくて、私は沈黙を続けてしまう。
「……いや、悪い、なんでもない」
「……」
嫌な態度とって、ごめん。
でも、本当に、話すことなんて何もないの。
心の中でそう言って、無言のまま、私はまた窓の外に視線を向けた。
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