第3章 三日月 -月の満ちはじめ-
「香奈さんはっ、セッターだったんですかっ」
「!?」
急に現れたその姿に思わずたじろぐ。
その子は、俺も打ってみたい!と目をキラキラさせていた。
「おい、日向、休憩終わるぞ~」
「えっ」
そう声を掛けられて、日向くんはちぇーっと輪の中に戻っていく。
随分コミュニケーション力の高い子だなと思うと同時に、小さいのに凄いセンスだなとも感じていた。
暫く練習を見ていると、誰がどういう役割でそこにいるのかというのが見えてくる。
あの背の高い子は一年生みたいだけれど、チーム最長身だろう。
クレバーなプレイ、でも、他のみんなとは違う温度を持つ子。
冷静沈着タイプというのが第一印象だった。
17時で切りよく練習が終わると、生徒の何人かが自主練をしたいと申し出てきた。
「ダメだダメだ、明日も練習あるんだからな。休息もトレーニングの一つだと思って今日はまっすぐ帰れ~」
繋心がそういうと、生徒たちはしぶしぶ片づけを始める。
あんなに動いているのに、どこからあのスタミナは出てくるんだろう。
「……はぁ……」
「流石に疲れたろ。悪かったな。でも助かったぜ」
「……んーん、私も久しぶりでなんか新鮮だった。でも、お腹が空いたからそこんとこ宜しく」
「……武田先生、すぐ出れるといいけどな」
そんな会話をしながら体育館の隅に座り込む。
がっつり運動したわけじゃないけれど、この熱気の中それなりに体を動かしたせいか、
Tシャツが濡れるくらいに汗をかいていることにふと気づいた。
「あ、でもやっぱ帰る。汗すごいかいちゃったしシャワー浴びたい」
「別に平気だろ?臭くねぇし」
私に顔をぐっと寄せてくんくんと鼻を動かすしぐさをする繋心に、はぁ、と呆れたため息をつく。
「……そういうところだよ、彼女が出来ない繋心コーチさん」
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