第3章 三日月 -月の満ちはじめ-
きっと、マネージャーの女の子は賢い子だと思う。
いや、見たことはないし話したこともない。
けれど、練習ノートを見る限り、彼女もまた真剣に部の一員として頑張っているんだろうなと思った。
「……これ、すごいね。ちゃんとデータ分析してる」
「あぁ、清水か。いつも助かってるわ」
「マネージャーって偉大でしょ。感謝しなよ」
「はいはい、ありがとうございます」
10分休憩の間、繋心とそんな会話をしていた。
生徒たちはこの暑さにそれなりに堪えているようだったけれど、まだまだ元気そうだ。
「部活って、何時までやるの?」
「17時。あと2時間だな」
「マジか、長い。もう帰りたい」
「飯奢ってやるから」
「それ、武田先生が、でしょ……」
最初に職員室へ挨拶に行ったときに、武田先生は平謝りで私に頭を下げ続けた。
本当は自分が体育館へ行けたらいいのだけど、電話当番に当たってしまって……と、心底申し訳なさそうだった。
この人が繋心にしつこく迫ったのか。根性あるように見えないけど、人は見かけによらないな、なんてことを考えていたら
どうやら私の表情は憮然としてしまったようで、武田先生はとっさに「晩御飯は僕が奢りますので!すみませんっ!」とまた大げさに頭を下げていた。
「……武田先生、いい人そうだね」
「まーな、あの人はすげー教師だわ」
「ふーん」
興味のないような返事を返して、私は壁にボールを軽くぶつけた。
そして、それを額の斜め上で、オーバーハンドでトントントン……と壁にうち続ける。
中学から、バレーボールを始めた。
私が高校生の頃は烏野高校に女子バレー部がなく、マネージャーを続けながら市営のスポーツクラブに通っていた。
大学でも、ずっとバレーボールを続けた。
けれど、それはただ部活をやっていたというだけで、上を目指したいわけでも、それで食べて行こうなんて考えるわけでもなく、
ただみんなでわいわいやってるのが楽しいと思っていた。それだけのものだった。
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