第3章 三日月 -月の満ちはじめ-
車の中で私は怒りあらわな態度で座った。
繋心は流石に気まずくなったのか、マジで悪いと謝ってくる。
聞けば、繋心は本当に烏野高校男子バレー部のコーチを請け負っているらしい。
少し前に顧問の先生から懇願されたみたいで、さらにあの音駒高校との対外練習試合があるからと聞いて、血が騒いだとのことだった。
それから今のチームの力に惚れ込んだらしく、暫くコーチを続けることになった、と。
「……繋心、バレー"だけ"は勉強熱心だったもんねぇ」
「だけ、じゃねぇよ!」
そう言いながらも、楽しそうに部活の話をする繋心の横顔をちらりと見る。
今日はマネージャーを務めている生徒が家庭の用事で午後帰ってしまったらしく
高校三年間、男子バレー部のマネージャーをやっていた経験のある私が、急きょ呼び出されるに至ったというわけだ。
「いやー、昨日お前に偶然会ったのは運命だな。タイミングばっちりだろ」
「……嫌な運命」
ぼそっと吐き出して窓の外を見る。
生徒は今昼休憩。顧問にお前の話はしておいた。人数が少ないから助かるぜ。
繋心は一方的に話をし続ける。
……それでも、私の話を聞こうとしないのは、繋心が自己的な人ではなくて、優しい人だからなんだろうっていうのは、よく解っていた。
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