第3章 三日月 -月の満ちはじめ-
「香奈ー!繋ちゃん来たよー!香奈ー!!」
私は寝たふりを決め込む。
いくらなんでも寝ている女子を起こしてまで連れ出そうなんて輩じゃないだろう。
お母さんの「あら、香奈寝ちゃったのかしら」という声が聞こえてくる。
そうだよ、寝てるの。さっさと帰れ、と思いながら耳を澄ましていると、
階段を上るドドドッという音が聞こえてきて、瞬間、部屋のドアがバンと大きく開いた。
びっくりして跳ね起きると、そこにはジャージ姿の繋心がいて、
「お、なんだ、起きてるじゃねえかよ」とずけずけと部屋に入ってくる。
「いや、本当……マジでさ……繋心に彼女が出来ないのってそういう所が原因だから」
「なんだと!?」
「あ、やっぱり彼女いないんだ」
「うっ」
ワザとらしく心臓に手を当てて傷ついたふりをする繋心を無視して、私はベッドから降りた。
すると、繋心は失礼にも女子の部屋をぐるりと見渡して、本棚の隣にかけていた私の室内シューズを見つけるとそれを手にした。
「これ、まだ現役で使えるんだろ。じゃ、行くぞ」
「え、待って、本当に何するの!?」
「マネージャー」
「はぁ?」
「バレー部のマネージャー。今日だけでいいからやってくれよ」
「……本当、急すぎて何から言えばいいのかもう……」
もう反論するのも抵抗するのも面倒くさくなって、私は繋心に手を引かれるがまま車に乗り込んだ。
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