第3章 三日月 -月の満ちはじめ-
「あっつ~い……」
部屋でひたすらダラダラしていると、口から出るのはそんな言葉ばかりだ。
冷房をつけるわけでも扇風機をつけるわけでもなく、窓の外からの風だけを感じてみる。
なんて自然に優しいことをしようなんて考えたけれど、暑いものは暑い。
朝はあんなに涼しくて気持ちよかったのに、昼にもなるとは田舎とはいえ暑くなるんだから困ったものだ。
「……扇風機、つけるか……」
と、手を伸ばしたとき、ベッドに放っていた携帯電話がブゥン、ブゥンと、小刻みに振動音を出した。
「……誰ぇ?って、またか……」
ディスプレイに映ったのは、昨晩と同じ人。
「…はい、もしもし」
『おー、香奈、飯食ったか?』
「は?何急に……食べたよ、お母さんのチャーハン」
『あー、おばちゃんのチャーハン美味いんだよなー。つーことで、今から迎えに行くから』
「……あの、電話番号間違えてるみたいです」
『おいおいおいおい、間違えてねえよ!香奈だろお前』
「……あのさ、非常識にもほどがあるよ。急に電話して来て何の説明もなしに迎えに来るとか、なんなの?私の都合とか無視なの?」
『今日暇なんだろ?』
「暇だけど。……って、暇じゃない!」
『まぁいいや。とりあえず、ジャージとか動きやすい服装でよろしくなー。後は迎えに行ったとき説明するわ。じゃあな!』
「えっ、ねぇちょっと……っ」
手からすべり落ちた携帯電話は、無機質な音がスピーカーから漏れ、ディスプレイには「通話終了」の文字が表示されていた。
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