第3章 三日月 -月の満ちはじめ-
簡単に身支度を済ませてから外に出ると、朝の澄んだ空気が、どこかどんよりとしていた気分を健やかにした。
田舎の夏の朝は涼しい。
超さわやか。
……ほらね、戻ってきた良かったでしょ、なんて、自分の行動を肯定するようなことを考える。
「……やっぱ、田舎はいいねぇ……」
なんて、年寄りのみたいだと自嘲して足を進めた。
そう。
改めて思う。
私の故郷はそこその田舎なのだ。
最寄りのコンビニまでは自転車でも15分くらいかかるかもしれない。
坂が多いこの地域はアシスト自転車じゃないときついし、実家にそんなものはない。
かと言って寝起きの頭でわざわざ車を運転するほどでもないけど、やっぱり歩くのも疲れる。
だから、コンビニではなく地域の小さな商店に行く。
小さな商店とは言え、生活必需品は一通り揃っているし、食料もバラエティ豊かなラインナップだ。
坂を5分ほど下ると、その商店は見えてくる。
坂ノ下商店。子供のころからの行きつけのお店。
繋心のお母さんの実家だそうで、今は繋心が店番を手伝っていると聞いている。
「おはようございまーす……」
そっと足を踏み入れるけれど、レジにいたのはいつものおばあちゃん。
繋心の祖母に当たる人だ。
「あれま、香奈ちゃん。久しぶりだねぇ」
「ばあちゃん久しぶり。元気だった?」
「あたしゃもうずっと元気だよ。あんたこそどうなの。東京行ったんでねぇの?」
「こないだ帰ってきてね、元気だよ!あっ、牛乳ある?」
無理やり話を終わらせて、ばあちゃんがそっちだべさと顔を向けた方に行く。
5種類ほどの牛乳の中から適当なものを選んでレジに持って行った。
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