第2章 繊月 -今に繋がる過去-
親に帰郷を知らせたのは、転職してから3か月も経った後だった。
順調だと証明したかったし、やっぱりなかなか言い出せずにいた。
親は呆れていたけれど、実家に戻ればいいのに、とは言わなかった。
私の性格をよく知っている、数少ない理解者だ。
地元の友達には、自分から戻ったと言うことはしなかった。
偶然駅で会った子に簡単に話をして、そこからちらほらと話が伝わっていったようだ。
だから、繋心にも直接話はしていない。
だからこそ、さっき家の前で会った時に、ちょっと気まずいなと思ってしまった。
その日の夜、綺麗に保たれた自分の部屋のベッドに体を横たわらせていると、突然携帯電話が鳴りだした。
ディスプレイに表示されのは『烏養繋心』の文字。
「……うわ……」
まぁ、携帯の番号もアドレスも何年も替えてないし、流石に電話帳に入っていたんだろうけども。
メンドクサイな。
寝たふりしようかな。
そう思う心と裏腹に、私は電話に応じていた。
『もしもし香奈かー?』
「……うん、ねぇ、もう夜中だよ。テンション高過ぎ……」
『おっ、やっぱ番号変わってねーじゃん!!』
「……うるさ……」
電話口の向こうでは聞き覚えのある声がやんややんやと騒いでいる。
恐らく酒の席で繋心が私を見たとかなんとか話して、そこから今に至るんだろう。
「あの、もう私寝るんだけど……」
『おぉ、悪い悪い、俺も朝早いし切り上げるかー!』
「……勝手にしなよ、じゃあね、おやすみ……」
一方的に告げて電話を切った。
いい年になっても仲間と騒げる気力があるなんて羨ましい。
朝早いならあんな時間から飲み始めなければいいのに……
そんなことを考えながら、眠りについた。
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