第2章 身代わりの晩餐会
「承知なのは知っているよ。瀬那は私やゼンを守るために命を賭してもいいと思っているかもしれないけれど、もし瀬那が簡単に命を投げ出したら、私は許さない。ゼンにとっても私にとっても瀬那は大切な存在なのだから。」
『……っ。』
私を受け止めているイザナ王子の腕がさらにぎゅっと強くなる。
驚いて、私は言葉を飲み込んでしまった。
それにイザナにも伝わってしまいそうなほど自分の心拍数が上がっていることがわかった。
なにかを言わなければならないような気がしたけれど、いつ命を賭してもいいと、どこか自分自身を投げやりにしていたことを自覚させられて何も言えなくなっていた。
「ねぇ、瀬那。」
優しい声でイザナ王子が続ける。
「瀬那と私は髪の色が似ているだろう。ここ最近は所作や話し方もわざと似せていることもあるが、瀬那の存在を知る家臣の間では、まるで私と双子の兄妹のようだといわれているのを君は知っているかな?」
『そんな、双子だなんて、畏れ多い…。』
自分の腕のなかに納まっていた瀬那との身体の距離を少しあけ、表情を伺えば、バイオレットの瞳が揺らぎ、頬が紅潮していた。
自分と同じ色のブロンドヘアーが美しく揺れた。
そこには、いつも冷静な瀬那が大きく動揺し、困惑の中におぼつかない様子で佇む可愛い女の子がいた。
言葉がでてこない瀬那に向かって、さらに僕は一言を付け加えた。
「いいかい、一度しか言わないよ。」
ロイヤルブルーの瞳が私を見つめていた。
「瀬那が私の代わりを務めることがあるように、私が瀬那の代わりになることもできるのだからね。」
心臓を掴まれたような衝撃的なセリフだった。
驚きすぎて固まっていると、次の瞬間、私の目の前に影が落ちた。
『…イザナ…。』
王子、そう続けようとしたが声にならずに、吐息のなかに消えていった。
唇にすこしひんやりとした温度と柔らかい感触。
とても優しい口づけが降り注がれていた。