第8章 花咲く蒲公英とクロウタドリ
クロウタドリの鳴き声の合間に、薬室の方向から微かに聴き馴染んだ声が聞こえた。
「リュウー?どこですかー?リュウー!」
声の方向へ目を向けると、鮮やかな赤色の髪を携えたお嬢さんがキョロキョロと辺りを見渡していた。
赤髪の白雪、このウィスタル城の薬室で薬剤師見習いをしている女の子だ。
生まれは隣国のタンバルン王国。
訳あって生まれた国を離れてここにいる。
今の俺の主である、この国の第二王子のゼン殿下とは、偶然に知り合ったそうだが、今や相思相愛の仲だ。きっと彼女の前向きでひたむきで、ときに大胆で、いい意味で期待を裏切り驚かされる、そんなところに主も惹かれたのだろう。
彼女を見ていると、こちらも元気になる。
お嬢さんもお嬢さんで、純粋で、聡明快活で真っ直ぐな主が、きっととても好きだ。
その事実を自分で自分の胸に刻む。
誰も見ていないと言うのに、自嘲を含む失笑が溢れた。いつの間にこんなに他人を気にするようになってしまったのだろう。
赤髪のお嬢さんは、薬室の回りを見渡し、薬草園の方向を一瞥した。リュウ坊を探しにでかけるかと思ったら、部屋の中から誰かに呼ばれたようで、薬室の中へと小走りで戻っていった。
(いつでも一生懸命だな。)
そう思った、その時、
―――キィキィ…キイキイキイキイ!!
先程までよりも大きくてけたたましい鳴き声と、ばさばさとした羽音がかなり近くから発せられた。何事かと辺りを見渡せば、信じられない光景が飛び込んできた。
(…嘘だろ!)
数本先の高い木に長い金髪を束ねた侍女らしき人がスカートを膝上まで捲し上げた格好で、そこにいた。