第8章 花咲く蒲公英とクロウタドリ
『奴が止まったのは、この木かな。』
クロウタドリが降り立っただろう背の高い木までたどり着いて上を見上げると、綺麗な声で囀り、キィキィと鳴く声がして、木の枝の間に木の枝が絡まった塊が浮かんでいた。
「はぁっ…。瀬那さん、僕…木なんて登れないよ。」
息を切らしたリュウは手を膝に当てて屈んだまま心細そうな声を出した。思わず苦笑すれば、上目遣いで睨まれた。
『流石にこの高さの木は、木登り初心者のリュウには厳しいかな。』
真っ直ぐに伸びた太い幹にしっかりとした枝が伸びて、若い緑色の葉がしっかりと生い茂っていた。葉の隙間から覗く青い空と太陽の光がとてもとても遠く感じる。
リュウにこの高さの木を登るのは難しいだろう。怪我がなければ、リュウを担いで登れなくもなかったけれど、今回は身軽なほうがいい。最初からそのつもりだったけれど、私が登ってくると伝えると、リュウは驚いた顔をしていた。
「え、でも瀬那さん、その恰好、…登れないでしょ。」
『登れないって思っているだけだと登れないだろうけど、登ろうと思ったら案外登れるものよ。』
なかなかロングスカートで木登りをした経験はないけれど、登れない理由は特にない。右肩は怪我をしているとはいえ、自分ひとりなら片腕だけに力が入れば十分だ。
長いスカートの裾は流石に邪魔だろうから、裾を少し捲り上げてひざ上の丈で裾の端同士を合わせ、きゅっと絞った。
さっきまで布の感触に包まれていた脚にひんやりとした空気が当たった。少し冷たいけれど、気持ちいいくらいの温度だ。
「瀬那さん…。」
リュウを振り返ればとても心細いような表情だ。きっと心配してくれているのだろう。
まぁ、流石に下から覗かれたら下着が丸見えだろうから、その間はリュウに地面を見つめてもらえばいいだけだ。
『私が登って取り返したら瓶を投げるから、リュウはその瓶を受け取ってね。それならきっとできるでしょ。ちゃんと受け取れる場所に落とすから。
でも、スカートの中は覗いちゃ駄目よ。』
と付け加えれば、
「……っ。」
と少し頬を赤らめて首をこくんと縦に振った。
ターコイズブルーの視線が地面へと向けられた。