第7章 双子のパラドックス※
――あの時、私を斬ったのは統真だった。
間違いない。あれは、兄だ。
どんなに顔を隠していようと、瞳だけは隠せない。あの暗い中で、一瞬の月明かりの光でバイオレット色が輝いたのを見逃すわけがなかった。
私と同じ色の、酷く冷たくて、とても綺麗な色だった。
私がそう認識していることは、イザナだけが知っている。
正しくはイザナには隠し通せなかった。
兄がどんな事情であの場に居たのかは城に仕える身の私は知る由もなかったけれど、ゼンを傷つけようとしたのには間違いなくて、賊があんなに城に入り込んだことや、絶妙なタイミングで襲ってきたことを考えると、兄があの騒動の裏で一枚噛んでいると考えれば、至極納得できたのだ。
実兄の統真はホシミ家の次期当主としての務めを果たしているらしいが、正直その本性を私は知らない。
イザナやゼンを守るのが私の仕事だ。
この二人に仇なす存在を私は見逃すことはできない。
たとえ実兄だとしても。
…けれど、統真はきっと強い。次期当主が確定しているということは、一族で最も武術に長けているということを表している。
そんなことを思っていると、目の前の、双子と評される義兄に名を呼ばれた。イザナは実兄よりも、私にとって兄らしく、ずっと身代りとなるべくして真似てきた人だ。まるで本当に血を分けあっているかのようで、かけがえのない存在であることは言うまでもない。
どうしたのだろうと思い、その透き通ったロイヤルブルーを覗き込むと、啄むようなキスをされた。
『イザナ?』
その名を呼べば、更に口付けられ、赤い舌をペロリと出して唇の輪郭をなぞるように舐められた。
『…っ!』
くすぐったくて、恥ずかしくて、思わず息を吸う音が漏れた。
「瀬那、俺が目の前にいるというのに他の男に想いを馳せるなど、許さないよ。」
イザナは真っ直ぐに私を見ていて、心が射ぬかれるようだった。
「統真よりも俺のほうが瀬那を知っている。双子の兄と言われるのに、充分過ぎるくらいにな。誰も知らない瀬那を知っている。」
そう言うと、今度は唇の隙間を割り、あの赤色のイザナの舌が私の口腔内に侵入し、歯列をなぞられ、行き場を失った舌を絡めとられれば、ぞくぞくした感覚が身体に行き渡った。