第2章 身代わりの晩餐会
「瀬那、少し踊らないかい?晩餐会では舞踏会もあるのだから、ね。」
『?踊り、ですか?お稽古はしていただいていますが、簡単な曲をいくつか覚えたばかりで…。』
そう返せば、簡単なものなら少しは踊れるんだね。とイザナ王子に手を引かれ、舞踊の練習に使っている広間へ連れられていた。
イザナ王子と手を組み、彼の手が私の腰を支え、私は彼の背に手を添えて、最も簡単なステップを踏んだ。
『1,2,3。1,2,3』
曲のテンポをまるで呪文のように唱えながら、イザナ王子と踊る。彼のエスコートが上手なこともあって、それなりに踊りもこなせるようになってきたのしれない…と、少し油断したときに、足元がもつれよろけてしまった。
『…ぁっ。ごめんなさい。』
イザナ王子に体重を預ける形となり、彼の胸に顔をうずめる体制となっていた。けれども、至極当然のようにイザナ王子が支えてられていて、不思議ととても心地よかった。
「瀬那に言っておきたいことがある。」
ふいに頭上からイザナ王子の声が降ってきた。
そして、珍しく少し間をおいてから言葉を続けた。
「今度の晩餐会、瀬那には私になってもらう。」
私を支えるイザナ王子の腕が背に伸びる。
「今回の身代わりの仕事は本当に瀬那の命を危険にさらしてしまうかもしれない。」
ぎゅっと、抱き締められて、
「瀬那、ごめん。」
と耳元で辛そうな声で謝るイザナ王子に、何か言わなければ、と、
『イザナ。謝らないで。承知しているから。』
と、彼の名前を呼び、私は大丈夫と月並みに返すことしかできなかった。
ゼンには“大人の事情”と詳細は伝えなかったが、イザナ王子と私には、舞踏会で身の危険にさらされる可能性が、かなり高いことが伝えられていた。