第7章 双子のパラドックス※
久しぶりにイザナに逢った。
(怒るのも仕方ない…か…)
賊の動きを偵察しにいくとだけ伝言を残しはしたけれど、実際のところイザナからの許可はもらっていなかった。しかも、怪我をしてからというもの、伝令への連絡もとっておらず(というか、そもそも自分が伝令役のようなものであるのだが)、賊を捕らえたのも私ではないことが伝わったのだ…。
まぁ、そこまでなら、まだいい。
自分が偵察に行ったものの、ゼンの配下の者―オビという名の男―が先に賊と遭遇して捕らえた―と言えば済む話だった。つい先ほどまでは、そうして乗り切ろうと思っていた。
今、私が怪我をしている、ということさえ、イザナに知られることがなければ、十分それで通用するはずだったのだ。
それが、薬室の隠れ診療部屋で寝込んでいるところにイザナがやってきてしまった。こんなことになるなら、予め何らかの連絡を入れておくべきだった。
イザナは時機にクラリネス国王になるというのに、所詮家臣である私に対して、ひどく心を寄せすぎるときがある。
とはいえ、変な誤解を生まないように、少なくともオビには、二度も助けてもらったわけだし、妙な嫌疑がかけられないようにはしておきたい…。
―――けれど、下手な嘘は見抜かれる。
『…まずは、ご報告が遅くなりましたことをお詫びいたします。』
「詫びは良い。東の端にて何があったのだ?」
事実を簡潔に…と覚悟を決めて話し始める。
『クラリネスの東端に位置する、商人たちの通り道の集落にて賊の知らせあり、襲われる可能性のある店へと数日の潜入捜査を行った、そこまではすでにお伝えしたとおりです。』
「それは伝え聞いている。…俺は許可した記憶はないがな。」
ちくりと一言刺されたけれど、すこし捲し立てるようにつづけた。
『その後、私の潜入していた店に噂の賊が入りました。ただ、そのとき私は店員として、オビ殿は偶々客として居合わせていたようです。私は賊に不覚をとってしまった一方で、気付けば彼が鮮やかに賊を取り押さえ、衛兵へと引き渡しがなされたという次第です。』
要点を押さえて簡潔に一息で言い切った。
細かいことや説明が面倒になりそうな内容を選んで端折ったわけではなく、あくまで要点を絞っての報告だ。
ロイヤルブルーのご機嫌を窺った。