第7章 双子のパラドックス※
―――何故、瀬那をこんなにも遠くに感じるのだろう。
幼い頃は、瀬那のすべてを知っている、そう感じられたのに―――――
俺は薬室の瀬那専用の診療部屋からその本人を引きずり出して、城の自室へと連れて戻った。薬室長より、暫くは安静に。と言い付けられていたので、瀬那をベッドに身体を横たえさせると、そのバイオレットの視線はまっすぐに俺へと向けられていたが、瞳の中には不満の色が浮かんでいた。
「何か不満か?」
『皆の前であんなことしなくても……。』
「薬を飲む手伝いをしただけのことだろう?」
何か都合の悪いことでもあるのか、と付け足せば、何か言いたげであったがその言葉を飲み込んだようだ。
薬室のあの部屋は、俺とゼンが使う部屋の横に瀬那のために作った部屋だ。
限られた人間しか入室許可を出していない場所であるにも関わらず、他の奴―しかも、あの黒髪の、新しいゼンが配下においたという身元のしれぬ輩―がそこにいたのだ。
瀬那が暴れたり逃げたりするのを抑えるために薬室長が頼んだのかもしれないが…まったく、気に入らない。
ベットへと腰掛け、瀬那の顔に掛かった羽毛の布袋をすこし剥いで、その顔を覗き込む。
「顔が赤いぞ?」
『気のせいよ…。』
「そうかな?」
瀬那は、口を尖らせて、また布団の中に潜る。
仕方ないので、髪を梳くように撫ぜ、続ける。
「さて、此処なら邪魔者も来ることはあるまい。瀬那が人目を気にして言いにくいことも、話もしやすいだろう。事の次第を報告してもらうぞ。」
『報告すべきことは、もう殿下のお耳に届いていると存じますが…。』
「横たわったままでいいから報告を聞いてやるというのに、布団をかぶったままというのはどういう了見か。瀬那」
叱責になっているのか怪しい内容ではあるが、瀬那は変なところが生真面目だ。確かに。という小さなつぶやきの後に、もぞもぞと再度顔を出した。
『ご報告いたします…。』
言葉を選んでいるのか、少し何かを考えている様子だ。
何があったのかも知りたいが、瀬那との連絡が途絶えたと知ったときから、どうしようもなく不安になった。
――らしくないが、瀬那は、俺にとってまるで半身なのだから――