第6章 交錯する想い
「薬室長ー。薬の小瓶をお届けにきました。」
扉の外から声をかけると、
「あぁ、オビ君!…それ、探してたの!」
勢いよく薬室長が出てきた。
やはり瀬那の薬を机の上に置き忘れていたらしい。
促されて部屋に入る。
瀬那にも見せつけるように、指先で小瓶をつまみ、ゆらゆら振り子のように揺らした。
「赤髪のお嬢さんが気付いて。」
「流石!白雪君!」
『えー。今日から薬がなくなったのかと思ってたのに。もう要らないですよー。』
余計な事しないでくれ、とバイオレットの瞳が訴えていた。
「瀬那くん、君の傷は君が思ってるより深刻だよ?今は身体を休めて傷を治すとき!大人しく言うことを聞くこと!」
不平を言う口は、薬室長の剣幕に押されて、しぶしぶ閉じられた。
そのとき、思いがけず、部屋の扉が開いた。
「薬室長の言う通りだよ、瀬那。」
不平を言う瀬那を追撃する一言を発したのは、
瀬那と同じブロンドヘアーに、主と同じロイヤルブルーの瞳をもつ、兄殿下だった。
『……イザナ…!なんでここに?』
思わず瀬那がベッドから立ち上がった。
驚きすぎて薬室長が固まっている。
兄殿下の纏う雰囲気に、気圧されるような感覚があった。一瞬で、その気高く凛とした空気が部屋に広がった。
兄殿下は躊躇いもなく歩みを進め、俺から薬の小瓶を掬いとり、こちらには特に気に止めない様子で瀬那へと歩み寄った。
「探したぞ、瀬那」
先ほどよりも少し低めの声だった。
同時に瀬那の身体を引き寄せて、まるで自分のマントで覆い隠すように、抱き締めた。
『……っ…』
ぎゅっと抱き締められれば右肩から身体に痛みが走った。
「また、右を怪我したのか…。」
イザナはかなり機嫌が悪い。服越しでもこうしていると、イザナの気持ちがわかるような気がする。
(……また?)
兄殿下の腕の中で、ばつの悪そうな表情を浮かべる瀬那。その後頭部に兄殿下が手を添えてーーー
兄殿下はその小瓶の中身を一気に煽り、その口づたいに瀬那の口内へと液体を送り、有無を言わさずに飲ませた。
二人の同じ色の髪が溶けあって一つになっているかのようで、唯一無二の対となっているかのようだった。