第6章 交錯する想い
―――夢を見ていた。
あぁ、これは、イザナの代わりに晩餐会に出たときの夢だ――
会場が暗転すると、がさがさとした男の声が響いた。
賊だった。
「イザナ王子を捕らえろ!」
「ゼン王子でも構わない!」
暗闇の中に喧噪と金属音が鳴り響く。
(…私が代わりに誘拐されたらイザナもゼンも助かるのかな…)
「生死は問わない!!」
―――そうだ、その言葉にはっとしたんだった。
目の前の賊から絶対にゼンを守らないと、って。
―――ゼンを守ろうと私は賊の前に出て、
左腕でゼンを強く抱きしめて、
『ゼン、俺の後ろに隠れていろ!』
そう叫んで、
でも、少しタイミングが遅くなって、右肩を切られたんだった。
――――この後、覚えてなくて…
…あれ…憶えてる…?
「瀬那!」
あぁ、ゼンが私の名を呼んでいる。
大きな扉に、この色の絨毯は、晩餐会会場の隣の部屋だ。
「瀬那!」
『…ゼン、大丈夫だよ。』
「血まみれで何言っているんだ!」
そのロイヤルブルーには涙がいっぱいたまっていて、さっきは私がゼンを抱きしめていたはずなのに、ゼンの腕の中にすっぽりと納まっていて。
『今日は、兄上と呼ぶ約束でしょ。ゼン。』
「瀬那は、兄上になりたいの?」
『……ゼン…?』
「瀬那は女の子なのを隠して、なんで兄上の真似をして、俺を庇って、斬られて…。」
そういうと、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
『……ゼン、気付いてたの?』
「半分。」
――――そうだ、曖昧な返事が返ってきたんだった。
「瀬那は、兄上の真似が上手だから、
最初は男の子かと思ってた。
…剣も強いし。背も、高い、し。
でも、兄上と瀬那が一緒に話しているのを見ていると、なんだか、その、どきどきして。」
『ちゃんと、言ってなくてごめん。』
ゼンの頬に左手を伸ばし、肌を撫ぜた。
「でも、さっき、
瀬那に抱きしめられて…
女の子なんだなって、
その……わかった。」
暗い部屋の中でも恥ずかしそうに頬を染めているのが分かった。
「瀬那は、大事なんだよ。」
そういって、涙で濡れたゼンの唇が私の唇に押し付けられた。