第6章 交錯する想い
ふぅ、と一仕事を終えた様子で、一緒に部屋をでると、
「オビ君、ありがとう。」
と、薬室長から感謝された。
「まぁ、薬飲ませて運んだだけですよ?」
そう返せば、人の口元をじっと見つめて、
「でも、瀬那に口移しで飲ませてくれたんでしょ。」
と、どうやって飲ませたのかを言い当てられて、おもわず、目を見開いてしまった。
「…意識がなかったのと、お嬢さんから急ぐように言われていたんで…。」
なんでわかったのか、と聞けば、独特の艶のある液体薬だから、唇に残っていたそれでわかったという。たしかに、瀬那の唇も濡れたようにとろとろとしていた…。
自分の唇に舌を這わせてぺろりとなめれば、さっきのあの甘ったるい味が口に広がった。
「大丈夫よ。誰かに言ったりしないから!」
とウインクされた。
(…何が、大丈夫なんだ…。)
そして、深刻そうな顔をして、
「瀬那くんに何かあったら、イザナ殿下にもゼン殿下にもあわせる顔がないんだよ。ほんとにありがとう。」
といっても、ここからが大変なんだけど…。という。
「今の薬で、少なくとも今夜は大人しく寝ているしかないだろうよ。オビ君が連れて帰ってきてくれて、ほんとによかった。瀬那くんは、昔からまじめで聞き分けはいいのに、変なところで頑固でお転婆でね。すぐに部屋を抜け出しては人を困らせて。ほんと変わらないね、まったく。」
困ったような、呆れたような表情だが、心底瀬那を心配している。
「あぁ、今のは余計だった、かな。」
そう、力なく笑う薬室長の目の下にはくっきりと隈が刻まれている。
「薬室長、俺みたいなのがこういうこと言わないほうがいいとは思ってますけど、そのまま徹夜してたら倒れますよ。」
そして、俺は、思わず彼女のことを聞いた。
「あの、瀬那殿って、一体何者なんですか?」
―――この時、俺は、すでに瀬那をもっと知りたいと、興味を持ってしまっていたんだ。