第6章 交錯する想い
―――甘っ。
口の中に広がる液体の味は薬とは思えないほど甘く芳醇な香りがした。
薬を飲み終えた瀬那の髪をまとめて、衛兵の帽子をかぶせる。
そう、白雪から、小瓶と一緒に衛兵の被る帽子も預かっていたのだ。
「薬室長から、これも預かってきてるんだ。よろしくね。」
あんなに目立つ金髪がこの時間帯に薬室に現れたら、イザナが倒れただとか誤解されるかもしれないし、瀬那が担ぎ込まれたと知られて、野次馬のように人が押しかけてきても困る。
――ということらしい。
ひょいと身体を持ち上げれば、やっぱり何層もの布におおわれているにもかかわらず、熱が高いことが伝わってくる。
それに、やはりとっても華奢だ。
濡れた唇がかすかに動いた。
「…………ゼン…。」
(…主…?)
まっすぐに薬室に向かえば、お嬢さんが薬室の前で待っていた。
「オビ!瀬那さん、見つけてきてくれたんだね!」
すると、お嬢さんの後ろから、ガラク先生が飛んできて、
「オビ君!瀬那くん!…薬は飲ませた、みたいだね。さぁ、早く中に入って!」
見慣れない扉の向こうの初めて見る通路に案内された。
(…こんなところあったんだ…。)
少し進むと、一つの扉があった。
その扉を開けると、今度は2つの扉があり、そのうちのひとつの部屋に案内された。
ベッドが二つ、部屋の壁に対を成して、それぞれ並行に配置されていた。その間には小さな机と小さな椅子がおいてあった。真ん中には、パーテーション代わりのカーテンレールがある。
窓はついているが、外にすぐ壁があり、外気は入るが、景色は見えず、外からもほとんど部屋が見えないような変なつくりの部屋だった。部屋の明かりがなければ昼間でもかなり暗いままだ。
部屋を照らすランプの明かりがゆらゆらと揺れていた。
「入って左側のベッドに瀬那を。」
薬室長は、不思議な香りのする香をたき、吸い飲みを使って何かの液体を飲ませた。
そして、ぐったりとした彼女の腕の、その袖をまくり上げて、おそらくアルコールが浸み込まされた脱脂綿で白い肌を拭き取り、針のついた透明なガラスのシリンジを差し込んだ。
そのシリンジは、あの日、あの夜にトーマと名乗った瀬那が自分で使用したものと同じで、きらりと輝いていた。