第6章 交錯する想い
薬室長から瀬那さんに小さなガラス瓶を渡すように頼まれてから、30分は城内を探しただろうか。
「どうしよう、見つからない。」
あちこちを探したが、未だに役目を果たすことができていなかった。
――綺麗なブロンドヘアーに、バイオレットの透き通るような瞳に、何より、ゼンのお兄さんによく似た人なのだから、すぐに見つけられると思っていたのに。
それにしても、たまに過激なことをする薬室長だけれど、
あんなに鬼気迫る様子は初めて見たな…。
「白雪くん!瀬那が部屋を抜け出した!
朝に薬を飲んでから、まだ昼の薬を飲んでいないんだ。
早くこの薬を飲ませないと効果が切れてしまうんだよね。
悪いけど、城の中には居るだろうから、瀬那を探して、これを飲ませてもらえないかな?
あ、あと手段はなんでもいいから、部屋に戻らせてくれる?首に縄をつけて引っ張って帰ってきてもいいし、気絶させてから、八房に担いでもらってもいいから。」
だなんて。
走り回っていたら、息が上がってしまった。
足を止めて息を整えていると、
「お嬢さーん!」
ゼンからの仕事で、しばらく城を空けていたはずのオビがこちらへ向かってきた。
「あ、オビ!帰ってきてたの!?」
「あぁ、ついさっき。主のところに帰還を報告して、これから薬室に、お嬢さんにも顔をみせに行こうかと思っていたんだ。」
オビの瞳のオリーブ色は、なんだか安心する色だ。
最初はを弓矢を放たれたりしたけれど、今は、ゼンの側近になって、いつも私の護衛役をしてくれている。
一緒に過ごせば、たまに変な行動はするけれど、よく気が利く人で、兄がいたらこんな感じなのかもしれないって思う。
「お仕事お疲れさま。おかえり、オビ。」
屈託のない笑顔。
白雪のお嬢さんに笑いかけられれば、疲れていたことなど忘れてしまうようだ。
「あぁ。…それで、お嬢さん、城内を走り回っていたみたいだけど、どうしたんだい?」
「あ、みてたの?」
―― 乱れた赤い髪を直しながら、
紅潮された頬に無垢な肌に少し汗がにじんでいて――
息があがっていることころも、すこし艶っぽい。
こちらの気を知らないままに、はぁっと息を整えて、
「瀬那さん、ってゼンのお兄さんに似ている人を探しているの。」
と事情を話し始めた。