第6章 交錯する想い
――手段は問わないから、薬室に連れてかえってこい――
という話を聞いて、瀬那が『帰りたいけど、帰りたくない』とつぶやいていた理由が、なんとなくわかった気がした。
あのぐったりとした瀬那をみたら、きっとお嬢さんはとても心配するだろうし、もっと早く彼女を見つけられればよかったと自分を責めるかもしれない。
そもそも、勝手に部屋を抜け出したのは瀬那だが、そういうことは抜きにして、人のために頑張ってしまうのがお嬢さんだ。
余計な気遣いかもしれないが、心をいためる白雪を見たくはないし、そうしないで済むのなら、自分はどんなときも盾にでも剣にでもなろうと思っている。
「では、その瀬那殿、俺が代わりに探しましょう。」
「え、でも、オビ、瀬那さんには会ったことないだろうし、これは私が薬室長に頼まれて…。」
お嬢さんの言葉を遮って、話をつづけた。
「瀬那殿には、ついさっき会ったんだよね。
しかも、何より気絶させてもいいって薬室長が言っているんでしょ?それなら俺の出番。もしその瀬那って人をお嬢さんが見つけて、動けなくなってたら運べるとは思えないし。」
すこし意地悪い言葉を選びながら、
ちらりとエメラルドグリーンを一瞥すれば、
綺麗な虹彩を潤ませていた。
内心、ぎょっとしたが、こちらの機微を気付かれるわけにはいかないので、話を続ける。
「それに、お嬢さんはさんざん走ってへとへとでしょ。俺が見つけて、薬を飲ませて、薬室へ運ぶのが一番いいと思うけれど、いけない理由はあるかい。」
いじわるなオリーブ色の瞳をきらりと輝かせてオビが言う。
「さっき会ったところからまだ遠くに行っていないなら、探す部屋も絞られるし。」
と、そう付け加えられれば、反対する理由が思いつかなかった。
「わかった。瀬那さん探しは、オビにお願いするね。でも、手荒な真似はしちゃだめだよ。ゼンにとっても大切な人なんだから!
私は先に薬室に戻って、瀬那さんが戻ってきたときの準備をしておくよ!」
と、薬室長から預かっていた薬の入った小瓶をオビに託して、一度薬室へと戻ることにした。