第5章 嘘つきたちの再会
ゼンの部屋を後にした私は、長居したことを後悔していた。
あの日、強盗に不覚を取った私は、傷の痛みに耐えられず、翌日のうちには、なんとか城に戻り、そして、ガラク先生のいる薬室を訪ねていたのだ。
人目につかない別室、実際のところ自室のように使っている部屋なのだが、そこで養生をさせてもらっていた。
私が薬室を訪れるときは、その仕事の都合上、怪我の種類が特殊だったり、薬を盛られたりと、普通の衛兵が負うようなものではないことが多いため、人目から離れた専用の部屋が宛がわれていた。
日々、男装をしていたほうが都合のいいことが多く、女性であることを余計な人物に知られることがないようにと、イザナの配慮だ。
もちろん、一部の人間は知っているのだけれど。
今日は、あの強盗団の尋問結果の一度目の報告が入る予定になっていた。
ゼンに渡る前に、内容を確認したかった。
―――王室を狙う、没落貴族の出身の賊。
昔、イザナを誘拐しようとした奴らに少しでも関わりあいがあるかもしれない。
たとえ、そうでなくても、クラリネス王国に徒名す奴らであり、この国の王子、国政を守るべき家柄に生まれ、それを自分の宿命とも信じている私にとっては、そのような奴らの存在を赦すことはできない。
曇天の空の、重く湿った冷たい空気で古傷が痛む。
今はその古傷の上から、かなり深い傷を負っていて、傷ついた魂に塩を塗られるような気分だった。
「…っ。」
痛み止めの効き目が切れてしまった。
薬室までの道のりが遠く感じられて、
人通りの少ない廊下の柱に身体を預けて、曇天を見上げた。
勝手に部屋を抜け出してきて、この様子で戻ったら、間違いなくガラク先生に叱られることが目に見えている。
かといって、まだ勤務時間中だ。
仕事で忙殺されているだろう、ガラク先生の目を盗むことはできるだろうが、八房くん、リュウくん、あと、新しく入っていた綺麗な赤い髪の白雪くん、薬室にいる彼らの目を盗んで部屋に戻ることは難しい。
「帰りたいけど、帰りたくない…。」
気付けば近くに、人の気配がした。
「こんなところで、何してるんです?…瀬那殿。」