第5章 嘘つきたちの再会
「どうした?オビ。」
主の声ではっとした。
目の前にいる瞳に吸い込まれてしまって、
そして、それがトーマであることに驚きすぎて、
挨拶をすべきところのタイミングが遅くなった。
なんとなく、この場でトーマ、いや、瀬那という目の前の人物を顔見知りであることを公にすることはやめておいたほうがいいような気がした。
「お見苦しい恰好で失礼いたします。」
急いで腰を折り、よそゆきの声で恭しく振る舞う。
「ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。ゼン殿下のお傍に仕え、伝令役を仰せつかっております、オビと申します。お初にお目にかかり光栄です。」
(トーマ…お前、あの傷でもう動けるのか…?)
心の声を押し込んだ。
「どうぞ、私のことも、オビとお呼びいただければ。」
もう一瞥する。
――間違いない。
目の前にいる瀬那は、トーマと名乗った彼女だ―――
「いやぁ、オビが兄上をじっと見つめて何も言わないから、どうしたのかと思ったよ。」
見惚れたか?笑いながら主が俺を茶化す。
「いえ、ゼン殿下。あまりにも気品高い御麗人でいらっしゃるので」
その一言を放つと、その場全員の視線を集めた。
「ずぶ濡れのままご挨拶するのがためらわれたんですよ。」
気付けば、主とミツヒデの旦那が、この世のものとは思えないものを見るように、俺のことを驚きの表情でこちらを見ている。
木々嬢は、ちょっと関心したような表情で、
トーマは、余裕を湛えつつも、もの言いたげな目つきで。
――――え?
「お、俺、なにか言っちゃいけないことを言いました…か?」