第5章 菅原夢
そんな事は露知らず、いつもの優しい顔でこちらを見て来る。
意識してるのは私だけ、か・・・
ちょっと悔しいけど、仕方ない
「お待たせ」
鞄を持って、一緒に下駄箱へ行く。
歩きながら、何気ない話をする。
学校の先生の話
テレビCMの話
コンビニの新しいお菓子の話
部活の話
いつも通り
でも、どことなく話は盛り上がらなくて、なんだか居心地が悪かった
私は、菅原にどんな気持ちを持っているのだろう
恋愛感情としての好き?
それとも、好きと錯覚しているだけ?
ただの異性の友達?
幼馴染の部活仲間?
モヤモヤの原因がわからないまま、気持ちの整理はつかなかった。
『あ、ちょっと飲物買っていい?』
菅原が、公園内の自販機を指差す
「勿論、いいよ」
頷きながら答えると、菅原は自販機へ向かって歩いて行き、その横にあったベンチに部活のバッグを置いて、財布を探していた。
そのまま、私もベンチに座る。
チラリと菅原を見ると、自販機前で
『何にしよっかな〜』
と小声で呟いていた。
女子っぽいとは違うけど、仕草が大地と違って可愛いというか、無邪気というか。
ふっと視線を戻して、自分の足元を見ながら、再度思いを巡らす。
この気持ちは、恋愛感情なのだろうか
もしそうだったら、今までみたいに3人で一緒にいるっていうのは、もう出来なくなるのかな・・・・
『鈴木!』
名前を呼ばれて、ふと顔を上げる。
そこには、紅茶とココアがひとつずつ。
『どっちが良い?』
頭の上から降ってくる声の元を見ると、優しく笑いながら、手を差し出していた。
「どっちでも・・・」
『選んで』
優しく、でも逃がさない声色で、2種類の飲物を差し出して来る。
「じゃあ・・・ココア・・・」
『はい』
ココアも紅茶も、良く飲む
学校でも、大体ココアか紅茶を買う
それを覚えてくれていたのだろう
じゃなければ、普通の男子高校生がココアなんて買わない
しかも、それを自然にやれるスマートさ
もらったココアを飲みながら、しみじみ考える。
菅原も、紅茶をひとくち飲んで、隣に座った
『鈴木、今日、何かあった?』
いきなりの質問に、肩が跳ねる
「え?」
声がうわずった。
『いや、何かさ、元気無い気がしたからさ』