第5章 菅原夢
『・・・あのさ・・・・名前、呼んでくれない?』
「・・・へ?」
あまりに簡単なお願いに、拍子抜けしてしまった
驚いて、抱きしめていた腕を解いて、顔を上げる
『大地も旭も名前呼びなのにさ、俺だけ苗字』
あ・・・言われてみたら・・・
大地、旭、スガって呼び合ってたから、それに準じてた
「今気が付いた」
そういって、ふふっと笑う
『笑うなよー!結構気にしてたんだぞ?』
そういって、額を人差し指でつんつんして来る。
そういう仕草、普通は恥ずかしくて出来ないでしょ
「菅原は可愛いね」
笑いながら伝える
『俺、一応男子高校生。可愛いはダメ』
「ごめんごめん、えーっと・・・考支?」
『何で疑問形?もう一回!』
「・・・考支・・・」
『もっと大きな声で!』
「こーし!」
『よしっ!』
そういって、2人で照れ笑う。
『じゃあ俺も、加菜って呼んでいい?』
「うん」
『…加菜』
改めて呼ばれると、照れる
2人の関係が特別なものにかわった証拠
『加菜〜』
もう一度、名前を呼ばれる
「んー?」
『あのさ・・・キスしてもいい?』
意外な申し出に、驚いて腕に力が入った。
確かに、付き合うっていうと、そういうことだけど
でも、菅原がそう言うこと考えてるなんて思ってもみなくて
いきなり“男”を意識した
暫く沈黙が続いて、ひとこと
「うん」
抱き締めていた腕をゆっくりと解いて、お互い見つめ合う。
緊張している私を怖がらせないようにと、額をくっつける
『緊張してるべ?』
そういって、くすっと笑う
「う、うん」
『やめとく?』
「・・・やめない」
そう告げると、頭を撫でてくれた。
『ごめん加菜、俺加菜の事、凄い好きだわ・・・』
そう言って、柔らかくキスをした。
「ん・・・」
言葉にならない相槌を、キスで飲み込まれる。
初めてのキスは、ココアと紅茶の味がした。
fin.