第5章 菅原夢
『へぇ、鈴木って、大地の家の近くなんだな』
「うん、そうなの。2軒隣。旭ってどの辺なの?」
『俺はさ、坂の下商店から右に曲がってまっすぐ行って。そこから交差点を左。地味に遠いんだよなぁ、俺の家』
『ひげちょこ!(笑)』
『え、ちょ大地、今のどこが!?』
『家が遠いとか、弱音吐くなってことだべ?』
「ちょっと、2人共、旭に厳しくない?(笑)」
そんな雑談をしながら、休み時間を過ごす事が多くなった。
大地と一緒にいると、家族といるみたいで、心が落ち着く
菅原は、何気ない仕草でも女子扱いしてくれて、ちょっと照れるけど、過剰すぎない分、居心地が良い
旭は、身体は大きいのに意外と小心者で、思いやりがあって優しくて、気持ちがあったかくなる
この3人と一緒に話す時間は、とても心地が良かった。
『鈴木〜!悪いんだけど、英語の教科書貸してくんない?』
教室の入り口からひょこっと顔を出して、そのまま私の机まで近寄ってくる
「え?いいよ?でも、大地じゃなくて?」
『いや、こういうのは女子から借りたいっていう男心』
「それ、男心と関係無いでしょ(笑)」
菅原は大地と違って、ちょと無邪気だ。
「その次、うち英語だから、返してね」
『りょーかいっ!サンキュな!』
ふわっと笑って去って行った彼は、本当に柔らかい。
女子である自分よりも可愛いのではないかと思ってしまうくらい
男子高校生にかわいらしいって言うのも可笑しいのだけれど、それ意外の言葉が見つからない。
そう思っていると、自然と笑みがこぼれた。
『何笑ってるんだ?』
大地にそう聞かれたけれど、
「へへ、思い出し笑い」
そう言って、また笑いをこらえる。
『変なヤツ』
そう言って、苦笑いしながら自分の席へ戻って行く。
次の休み時間、私はトイレに行ったついでに、英語の教科書を返してもらおうと、そのまま菅原の教室へ寄った。
あと少しで教室の入り口、という所で、中から女子の声がした。
『菅原君って、本当、指綺麗だよね〜』
『髪も柔らかいし』
一瞬行くのをためらったけど、ここで立ち止まるのも逆に目立つ。
ちょっと気まずい気持ちのまま、教室へ足を運ぶ。
そっと廊下側の窓から中を覗くと、クラスメイトから手を触られたり、髪を撫でられたりしている菅原がいた。