第4章 月島夢 後編
今まで蛍の前で緊張していた自分が馬鹿らしくなって、笑みがこぼれた。
「ごめんごめん、何か、今まで無駄に緊張しちゃってたなぁ~と思って」
緊張の糸がぷつりと切れ、今まで押さえていた感情が、重みに任せて流れ出て来る。
私はくすくす笑ってると、恥ずかしそうにしていた蛍の表情も自然と柔らかいものになっていく。
お互いにひとしきり笑って、部屋の雰囲気は暖かく落ち着いてしまって。
ほっとしていると、蛍が近づいてきてキスをした。
触れるだけのキス。
一瞬の出来事で、蛍を見ると、目が合った。
『加菜・・・』
そっと囁いて、もう一度キスをした。
今度は舌で口内を犯す様な、厭らしいキス。
今までは、触れるだけのキスしかしてなかったのに。
蛍の優しい舌使いで身体がどんどん解され、熱くなっていく。
お互いの気持ちがそのまま流れ込んでいく気がして、何度も何度も舌を絡めた。
唾液が混ざり合い、唇を離す時に糸を引く。
ヤラシイ
そう思っていると、蛍の姿が目に映る。
落ち着いた瞳
少し乱れた息遣い
唇についた唾液を舐めとる舌
それらの色香にあてられ、恥ずかしくて後ろに後ずさろうとする。
それを逃がすまいと、蛍の腕が腰を支え力を込めて来た。
『・・・今までは我慢して来たけど、もう我慢しないから・・・王様と話したりなんかして、何してるのさ・・・』
そう呟いて、また深く深く口内を犯していく。
いつものクールな蛍でもない
部屋での常温の蛍でもない
雄の蛍
それが嫉妬だとわかり、嬉しくなる。
ましてや、あの蛍が嫉妬だなんて、考えもしなかった。
腰を支えている腕の力
細いのに意外と筋肉質な身体
口内を犯す舌遣い
時折漏れる吐息
今まで見たことのない、蛍
「・・け、けぃ・・・」
たまらず、キスの途中で名前を呼ぶ。
『何?』
キスを止めて、顔を覗き込んで来る。
いつも見ない彼の色気と羞恥に煽られ、どうしたら良いかわからず、つい名前を呼んでしまったのだけれど
落ち着いたその表情でさえ、色香をまとってより一層煽って来る。
ズルい
言葉の続きを待っている様子の蛍に、何て言ったらいいかわからなくて、押し黙る。
だらしなく開けた口から、はあはあという酸素をとり込む音だけが、部屋に響く。