第4章 月島夢 後編
そう考えていると
はぁ、と大きい溜め息をついて、こちらを見て来た。
『あー・・・王様の事で揉めてるなんて、本当、無駄・・・』
何だか拍子抜けしてしまった私は、ふふっと笑った。
恐らく本音だろうけれど、一応彼なりに、この重たい空気を変えようと考えた結果の言葉でもあるだろう。
そう思うと、気持ちがほっこりした。
「蛍って、優しいね」
その言葉にちょっと驚いた様子で
『どこが優しいのか、全然わかんないんだケド』
「影山君のことそんなに得意じゃない蛍が、あっさり諦めるなんて」
『いや、諦めるっておかしいでショ』
即座に否定。
でも、言葉とは裏腹に、表情はさっきのものと違ってとても穏やかで。
そんな蛍を見て、自然と安堵が広がって、自分の表情が柔らかくなるのを感じた。
『はぁ・・・あー、もう・・・自覚無いんだから・・』
そう小さめに呟いて、一度視線を外して、もう一度向き直す。
『あのね、一回しか言わないから』
「・・・うん?」
『加菜は僕の彼女なんだから、他の男と仲良くするって、おかしいよね?ってこと。あんまり困らせないでよ。手がかかるのは、チームメイトだけで充分なんだから』
そう言って、蛍の頬が少しだけ赤くなった。
あ、照れてる。
初めて見る表情に、つい釘付けになる。
見られたく無い様子で、眼鏡の鼻のあたりをクイっと押し上げて、顔をそらす。
表情を読み取られたくないのだろう
口元も手で覆っている。
「蛍、照れてる・・」
『うるさいよ。黙らせようか?』
そんなふざけた会話。
『あー・・もー・・・・・』
恥ずかしさを押さえる様に、声を出して顔を天井を向く。
『・・・言わせないでよ、こんなこと』
察してよとでも言う様に、こちらにちらりと視線だけ向ける。
まさか、そんな事を言われるなんて思ってもいなくて
驚きを隠せないまま、蛍をじっと見つめた。
照れ隠しで天井を仰いだままの蛍。
あまり見ない蛍のその様子に、いままでのモヤモヤが安心に変わり、つい くすくすと笑い始めてしまった。
蛍が、ムッとこちらに顔を向ける。
『何笑ってるのさ・・・』
いつもの不機嫌そうな表情とは少し違う、恥ずかしさと悔しさとが混ざり合った様な、そんな表情。